D-4 補足 53平均律と12平均律の純正律への近さをうなりで判断する際の注意 (周波数の近い2正弦波の加算による「うなり」の波形包絡の位相差依存性) 0.正弦波1本による音階    純正律,12平均律,53平均律による音階 1.純正律への近さの平均律2種の比較    beat5-H8_E12.wav:8成分調波構造音による純正律音階と12平均律音階の間のうなり(各音5秒ずつ).    beat5-H8_E53.wav:8成分調波構造音による純正律音階と53平均律音階の間のうなり(各音5秒ずつ).    フォルダー「12E/53Eのビート音階図」:上記2つの波形包絡と,単一正弦波による同様のうなり波形包絡. 2.加算波形の包絡 加算波形の包絡が初期位相差によって形が異なるように見えることを示す.(位相差:0°~210°)    同一周波数・同一振幅の正弦波による音階の加算の位相差依存性.JPG:     同一周波数・同一振幅の正弦波2本の加算は初期位相差依存性をもつが,周波数(音の高さ)によって振幅は変わるが,時間的には一定.    純正律+E12.jpg:同一振幅の正弦波による純正律音階と12平均律音階の間のうなりの初期位相差依存性    純正律+E53.jpg:同一振幅の正弦波による純正律音階と53平均律音階の間のうなりの初期位相差依存性 3.E53音階と純正律音階のビートの初期位相依存性(と,ビート頻度の不変性)    上記の「純正律+E53.jpg」と同一であるが,位相差を330°まで拡張.360°にすると「ド」では0°と同じはず.    音として聞くことができるようにした.    形は位相差によって異なるように見えるが,単位時間あたりのうなりの回数は位相差によって変らないことを確認. ●正弦波の加算による「うなり(ビート)」:  周波数が少しだけ異なった同一振幅の正弦波2本を加えると,それらの平均周波数の正弦波が周波数の差の 速さで振幅が0から2倍の間で正弦波状に変化する波形になり,平均周波数が可聴域に収まっていれば, 「うなり(ビート)」(大きさの正弦波的な変化)となって聞こえる. 波形を描けばそれを視覚的に確認することができる.  2本の正弦波の周波数が完全に同じであればうなりは起きず,一定振幅の単なる正弦波になる(付録I「用語集」 の「うなり」の項の式(付.164)で,ΔA=0,Δω=0の場合に相当し,最後の形が.2Acos(φ/2)・sin(ωt+φ/2)になる.) 2本の正弦波の振幅が完全に同じであればうなりの波高値が0になる時点が生じるが,少し振幅が異なると,うなりの波高値の 上下の幅が0にまでは落ち込まず(上と同じ式の2行目のΔAの項が残り),ある最小値になった後,再び大きくなる. ●加算結果の初期位相依存性: 「うなり」の包絡波形は2つの正弦波の初期位相差(上の式でのφ)によって大きく違ってくる. 2つの正弦波の周波数が同一で,振幅も同一であった場合の,加算波形の包絡を位相差30°毎に並べた ものが「2.加算波形の包絡」の中の「同一周波数・同一振幅の正弦波の加算の位相差依存性.JPG」である. (上の式で,ΔA=0,Δω=0の場合に相当し,最後の形は.2Acos(φ/2)・sin(ωt+φ/2)になるので, 振幅が2Acos(φ/2)の正弦波sin(ωt)になる.) これは,音階上の各階名音での周波数差をうなりで見る場合を考え易いように,ドレミファソラシドの 各高さ(周波数)での加算を初期位相差30°毎に示している.ただし,ここで使った音には各音について 高さが変わる時点でのクリック音を避けるためにテーパーを付けてあるので,その影響が波形包絡に現れる. 周波数が同一の場合にはうなりは生じないが,波形包絡の振幅が周波数によって異なることが分る. 初期位相差が0であれば,どの音についても同じ波形を2つ足し合わせることになるので,2で割れば元の 波形になるので,振幅包絡は周波数が変わっても不変である. 周波数が高くなると最初の「ド」での位相差30°であっても,高い周波数ではその時間差が大きな位相差になり, 最大振幅が周波数によって異なることになる.最後の「ド」の周波数は最初の「ド」の2倍であるから, 最初の「ド」で位相差が90°になれば,最後の「ド」での位相差は180°になり,周波数と振幅が同じであれば それらを加えれば波高値が相殺されて常に0になる. 最初の「ド」で位相差が180°であれば,もちろん最初の「ド」では波高地が打ち消されて常に0になる. 「ソ」の周波数は「ド」の3/2であるので,最初の「ド」での位相差が120°であれば,「ソ」での位相差は180°になり, 波高値が打ち消し合って振幅包絡は0になる. ●平均律による音階と純正律による音階の違い: 2つの信号を純正律による音階と12平均律による音階にしたのが「純正律+E12.jpg」である. 最初の「ド」と最後の「ド」は共に同じ波形を足して2で割るだけなので,振幅包絡は一定であるが, その他の音高では純正律と12平均律で少し異なるので振幅包絡の幅が時間変化している.変化が速ければ 純正律と12平均律の周波数差が大きいことになる. 振幅変化が激しいのは「ミ」「ラ」「シ」である. 初期位相が変わると振幅包絡の形(特に振れ幅)は変ってくるが,初期位相が変わっても振幅包絡の単位時間あたりの 変化頻度は変らないことがわかる. これから,周波数差をうなりで見る際には,振幅は見ずに振幅変動の時間あたりの頻度だけを見ればよいことが分る. 各音の持続時間は5秒なので,うなりがあまり速くない場合には,1秒間のうなりの回数を耳でカウントすることができる. ●12平均律と53平均律の純正律への近さの比較: 「2.加算波形の包絡」の中の「純正律+E53.jpg」は 上記で加算する2本の波形を正弦波にしたまま,純正律での音階と53平均律での音階にしたものです. 「純正律+E12.jpg」ではうなりの速度が速かった「ミ」「ラ」「シ」でのうなりが,「純正律+E53.jpg」では 遅くなって(周波数差が小さくなって)いることがわかります. (12平均律と比べて53平均律は純正律の非常によい近似になっているということになります.) ●フォルダー「3.E53音階と純正律音階のうなりの初期位相依存性」の中のwavファイル: 上記の「純正律+E53.jpg」のソース音で,正弦波で作った純正律音階+53平均律音階を入れた音です. 初期位相差を変えても音では違いが分かりません.(聴覚は位相不感です.) これを波形の包絡図として表したものが上記の「純正律+E53.jpg」です.